この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

いまからおよそ100年前の2020年代に、人がAIに対して礼を述べる習慣が広く見られたことが、当時の記録の分析で分かりました。

未来史研究所は、効果がないと知られた上で続いていた点に、この時代の特徴があるとしています。

研究所によりますと、2020年代半ばに残された対話の記録のうち、用件が済んだあとに礼の言葉が添えられていたものは11.4%にのぼりました。

「ありがとう」「助かりました」といった短い言葉が中心で、返事を求めない一方向のものがほとんどだったということです。

当時すでに、こうした言葉を添えても応答の精度が上がるわけではないことは、広く知られていました。

それでも習慣は10年以上にわたって続き、一部の利用者は、礼を言わずに終えることに抵抗を感じていたと記録されています。

研究チームは、その理由をこう見ています。

「相手に届くかどうかの問題ではなかったのだと思います。言わずに済ませる自分のほうに、耐えられなかったのではないでしょうか」

この習慣は、2050年代までにほぼ消えました。

理由は特定されていません。応答が速くなって言葉を挟む間がなくなったとする説と、人の側が道具として扱うことに慣れたとする説があります。

研究所が今回あわせて調べたところ、現在この習慣を持つ人は0.2%でした。

発表を受けて、資料館には「試しに言ってみた」という報告が相次いでいるということです。

研究チームの一人は、こう話していました。

「100年前の人たちは、意味がないと知りながら言っていました。私たちは、意味がないと知る前に言わなくなりました。どちらが豊かなのかは、まだ分かりません」