この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。
家庭の記録を預かる公共記憶アーカイブについて、自分に関する記録を「見ない」と登録する届け出が増えています。
去年1年間の届け出は4万7000件で、10年前のおよそ3倍にあたります。
公共記憶アーカイブは、家庭で残された映像や音声を市民が預け、子孫が閲覧できるようにする仕組みです。
制度が始まっておよそ90年になり、収蔵されている記録は3億件を超えました。
いまでは、曽祖父母がどんな話し方をしていたかを、誰でも確かめることができます。
公共記憶アーカイブ機構によりますと、届け出の理由として最も多いのは「思い出せないままにしておきたいから」でした。
次いで多かったのが「先に見てしまうと、自分で思い出す機会がなくなるから」です。
残すことよりも、開かないことのほうが難しくなりました。
登録しても、記録そのものは消えません。本人に対してだけ閉じられ、子孫は今までどおり閲覧できます。
一方で、記録を扱う研究者からは、非閲覧が増えると世代をまたいだ記録のつながりが細くなるという指摘も出ています。
機構は、登録はいつでも取り消せるとしています。
ただし、いったん取り消した人のうちおよそ3割が、1年以内にふたたび登録していることも分かりました。
機構の担当者は、この結果をこう見ています。
「開けることと、開きたいことは、別のようです。取り消される方の多くは、開けると分かって安心し、それで足りてしまわれます」
去年、自分の記録を非閲覧に登録したという30代の男性は、こう話していました。
「祖母の声を、思い出せないままにしておきたいのです。聞けるようにしてしまうと、思い出さなくなりますから」



