この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

沿岸の建物が霧から採る水を、どこの水として扱うのかを定める国際的な取り決めの調整が続いています。

沿岸水利調整会議によりますと、運用の開始は2128年を目標としていますが、扱いの原則が固まっていません。

霧の採水は、建物の外壁に通した板に霧を当て、結んだ水を集める仕組みです。

海沿いの集合住宅では、外皮の一部としてあらかじめ組み込まれているのが普通になっています。

1棟が1日に採る量は、霧の濃い時期で200リットル前後です。

この板は、もともと水を得るためのものではありませんでした。

外壁の温度を下げる仕組みとして広まり、集まった水は捨てられていました。

生活に足りる量が採れるようになったのは、板の目が細かくなってからです。

調整が難しいのは、霧が発生した場所と、採られた場所が違うためです。

沿岸に沿って流れる霧は、発生した地域から数十キロ離れた先で、別の地域の建物に採られます。

霧は、境界を知りません。

会議には、扱いの案が3つ出ています。

霧が発生した側の水とする案、実際に採った側の水とする案、そして帰属を定めずに採水量だけを報告する案です。

沿岸部で採水の板を持つ建物は、およそ8万棟にのぼります。

会議によりますと、量そのものは記録できているものの、その霧がどこから来たのかを後から測る方法がないということです。

観測の網を細かくすれば追えるようになりますが、そのための費用は、採れる水の価値を上回ると見られています。

一方、原則を決めること自体への反対もあります。

帰属の線が引かれれば、霧の少ない年に採水を控える建物が出るという指摘です。

板は外皮に組み込まれているため、止めれば建物の温度の調整にも影響します。

来年から季節の区分が5つに改められることも、調整に絡んでいます。

霧が最も多いのは残暑期にあたる時期で、この設備をどの季節のものとして扱うかが決まっていません。

会議は、原則を決めないまま設備が増え続けることのほうが厄介だとしています。

先に線を引いておかなければ、あとから引いた線が既にある建物を止めることになるためです。

会議の担当者は、こう話しています。

「川であれば、上流と下流という言い方ができました。霧にはそれがありません。順番のない相手と、どう分けるかという話をしています」

沿岸の集合住宅で20年ほど管理を続けているという男性は、こう話していました。

「うちの板は、朝の1時間でほとんど採ってしまいます。あれがどこの海の霧なのかは、考えたことがありませんでした」