この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

会話をその場で訳す自動通訳は、話す内容だけでなく相づちや間の長さまで再現できるようになりました。

国際会話翻訳基準機構によりますと、間の長さをどこまで訳すかを巡る国際基準づくりが、協議開始から6年たった今も決着していないということです。

対応言語は89、参加国は41にのぼりますが、間を短く詰めたい国と、そのまま残したい国とで意見が分かれています。

訳せなかったのは言葉ではなく、黙っていた時間でした。

ある国では間を0.4秒以上訳すと間延びして聞こえると敬遠され、別の国では間を詰めるとせかされていると受け取られるといいます。

議論がとくに込み入るのが、月面の拠点との通話です。

裏側の観測共同体のように、地球との通信が1日に数回しか開かない場所では、返事までの間に通信の都合と話し手の迷いが混ざります。

どこまでが人の間で、どこからが回線の間なのかを、聞いている側は区別できません。

会議に相槌代行を同席させ、うなずきの間だけを人が担うという運用も一部で始まっています。

ただし、基準を細かく決めるほど会話が窮屈になるという反対意見も根強くあります。

機構の担当者は、こう話しています。

「言葉の意味が完璧に訳せるようになったぶん、訳しきれない部分がかえって目立つようになりました」

国際会議で通訳を使う参加者は、こう話していました。

「相手の沈黙をどう受け止めればいいか、機械の訳より先に自分で考えるようになりました」