この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

国際時刻調整会議は、2127年に予定される月の標準時の運用開始に向け、地球から見える月面4拠点を同時に消灯させる試験を、今年5回目実施したと発表しました。

試験の目的は、地上の観測所が明るさの基準をいったんゼロに戻し、測定機器を校正し直すことです。

対象になるのは、晴海環状市や地球望遠区を含む、肉眼でも確認できる表側の4拠点です。

普及会はこれまで、居住区の明かりが年々弱まっている現象を観察会で扱ってきました。今回の消灯はその延長ではなく、基準をそろえるための人為的な処置だとしています。

天文観測普及会が主催する観察会では、いつもは居住区の明かりを目印に探しますが、試験の夜は逆に、暗く欠けた位置を見つける遊びになっています。

参加世帯の多くは、数日前から普及会が配布する位置図を頼りに、日没後の空のどのあたりを探せばよいか予習しているということです。

光ではなく、光が消えている場所を探す夜です。

今回の消灯は90分間続き、観察会に登録した世帯はおよそ1900にのぼりましたが、4拠点すべての位置を正しく指し示せたのは2割ほどだったということです。

地球望遠区では消灯の開始が予定より6分遅れ、参加者から「まだ光っている」との声が一時寄せられました。

普及会の担当者はこう話しています。

「いつもの十五夜なら光を頼りにできます。今夜は、覚えていた場所を信じるしかありません」

国際時刻調整会議は、2127年の本格運用までこの試験を続けるとしていますが、月の「0時」をどの拠点にするかは、依然として決まっていません。