この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

移動生活研究会は、紙の手紙を書いて届ける愛好者の6割が、書き出しで「そちらは何季ですか」とたずねているとする調べをまとめました。

手紙は、季節のあいさつから書き始めるのが作法とされてきました。

ところがいまは、建物ごとに季節が違います。

今月の下旬も、道を一本へだてて、片側はもう秋、片側はまだ残暑期という町があります。

愛好者が手渡しで届ける手紙は、書いてから読まれるまでにおよそ3日かかります。

その間に相手の棟の季節が替わることもあるため、書き手は、読まれる日の季節を決められません。

そこで広まったのが、季節のあいさつの代わりに、まず相手の季節をたずねる書き出しです。

返事には相手の季節と近況が書かれ、本題はそれを受け取ってから、二通目に書きます。

このため、用件が決まっている手紙でも、本題に入るまでに往復でおよそ一週間かかります。

返事が届くころには、相手の季節がまた替わっています。

生活季節調整センターには、宛先の棟がいま何季かを照会する問い合わせが、昨年およそ2300件寄せられました。

ただ、センターが答えられるのは照会した日の季節で、手紙が読まれる日の季節ではありません。

研究会の担当者は、こう話しています。

「丁寧な人ほど季節を調べて書きますが、調べた日と読まれる日はずれます。たずねる書き出しは、あきらめの作法でもあります」

一方、用件を急ぐ人からは、書き出しだけで一往復するのは重いとして、たずねる一文を省いてよいという声も出ています。

配達愛好者の70歳の男性は、こう話していました。

「外れたら外れたで、返事に『こちらはもう秋です』と書いてきます。その一行が読みたくて、毎回たずねています」