この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

個人の聞こえ方に合わせて周囲の音を選び取る機器が広まったことで、秋に鳴く虫の声が届きにくくなった地域が増えています。

音風景保存会によりますと、虫の声を録音して近隣の地区と交換する行事が、この10年でおよそ4倍に広がったということです。

参加している地区は全国でおよそ680か所、1地区あたりの持ち寄り本数は平均42本にのぼります。

録音は、聞こえなくなった音を思い出すためのものでした。

交換会が集中するのは、来年から残暑期にあたる9月から10月にかけての時期です。

夜の住宅地では騒音回収車が持続音を弱めながら巡回していますが、虫の声はもともと回収の対象に入っていません。

聞こえにくくしているのは町の側ではなく、一人ひとりの機器の設定のほうだということになります。

交換会では、持ち寄った録音を地区の掲示板で流し、聞き比べながら気に入った音を分けてもらう仕組みが定着しています。

宵原三丁目の会場では、集めた録音のうち何本かを保護音として登録するかどうかが、毎年の議題になっています。

保護音に指定されれば町が弱めることはできなくなりますが、住民の合意が要るため、その場で結論が出ることはまれです。

音風景保存会の担当者は、次のように話しています。

「録音した音のほうが、実際の虫の声より澄んで聞こえるという声もあります。それでも毎年集まる人が絶えません」

長く参加している住民は、こう話していました。

「子どもの頃に聞いた気がする音を、録音の中から探すのが楽しみです」