この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。
生活季節調整センターは、月面の温室で摘まれた茶葉に「新茶」の表示を使ってよいかという問い合わせが、この1年でおよそ60件寄せられていると明らかにしました。
月面には季節がなく、温室の茶は年に4回摘み取られています。
同センターによりますと、月面で茶を育てているのは12拠点のうち4か所で、いずれも居住環の中の温室です。
気温も光も一年中変わらないため、摘み取りの日取りは人手と輸送の都合で決まります。その年の最初の摘み取りを新茶と呼ぶ温室もあれば、地球の春に合わせて届く回だけを新茶とする温室もあり、袋の表示はそろっていません。
袋に印字する摘み取りの日付も、拠点ごとの時刻で数えるため、同じ日に摘んでも1日ずれることがあります。
今月は晴海環状市の温室が、秋の摘み取りを「新茶」として売り出しました。地球の暦では残暑期にあたり、来年から残暑期が加わる地球の店頭には、「残暑期の新茶」という袋が並ぶことになります。
季節のない畑に、季節の言葉だけが届いています。
センターは、地球の暦の言葉を月の産物にどこまで貸せるのか、表示の目安づくりに着手しましたが、結論は出ていません。
地球の茶農家の一人は、こう話しています。
「新茶は、冬を越した芽が最初に出る日の言葉です。越す冬のない畑に、同じ名前を渡されても困ります」
晴海環状市の温室で摘み取りをしている人は、こう話しています。
「うちの葉は、今日が初めての摘み取りです。名前はあとから、飲む人がつけてくれます」



