この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

2020年代、初対面の相手に紙の名刺を両手で差し出す「名刺交換」という所作が、商談や挨拶の場で欠かせないものとされていました。

未来史研究所によりますと、当時のはたらく人1人が1年間に交換していた名刺は平均およそ280枚にのぼったということです。

情報は電子でも渡せたのに、紙は両手で渡されていました。

連絡先はすでに電子的に共有できる仕組みが整っていたにもかかわらず、紙を渡す所作そのものに意味があるとされていたとみられています。

この習慣は本人確認の方式が変わったことで2040年代にはほとんど姿を消し、現在この作法を再現できる人はおよそ0.4%です。

未来史研究所は今週、寄贈された名刺入れの束をもとに、当時の所作を再現する体験会を開きました。

会場では、いまも現金の使える宵原本通り商店街から硬貨を借りて、両手で渡す練習に使ったということです。

紙や金属を手から手へ渡す機会そのものが、この百年でほとんどなくなったためです。

研究員はこう話しています。

「両手で渡す角度や間合いに細かい作法があったと分かり、記録の少なさに苦労しました」

体験会に参加した来場者は、こう話していました。

「紙を渡すだけの動作に、こんなに緊張する理由が最後まで分かりませんでした」