この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。
2020年代、子どもの誕生を記念して庭先に苗木を植える「誕生記念樹」という習慣が、多くの家庭に見られました。
未来史研究所によりますと、残暑期の寄贈月間に集まった登録証や写真をおよそ2200件分析した結果、出産の前後に苗木を植えたと記録に残る家庭は、全体の28%に上ったということです。
根付くかどうかより、植えたという記録のほうを、人は残したがったようです。
庭のない集合住宅の家庭では、鉢植えで代わりに済ませる例も多く見られたとしています。
都市部の建て替えが進むにつれて木を引き継ぐ家庭は減り、誕生記念樹として現存が確認されているのは、全国でおよそ620本にとどまっています。
このうち宵原三丁目に植えられていたイチョウの1本が、来月の道路拡幅工事に合わせて移植されることになりました。
登録証によりますと植えられたのは2026年10月で、今月でちょうど100年を迎えます。
未来史研究所は登録証に残っていた姓を公共記憶アーカイブで照合し、植えた家庭の子孫にあたる女性を探し出しました。
「名字しか合っていなくて、半信半疑で立ち会いました」
移植に立ち会った70代の女性はこう続けています。
「曾祖母が植えたとは聞かされていましたが、本当にこの木だとは思っていませんでした」
現在、誕生記念樹という習慣を知っている人はおよそ0.3%にとどまっています。
移植作業にあたった造園業者はこう話しています。
「根がどれだけ張っているかより、誰かが覚えていたことのほうに驚かされました」



