この記事はフィクションです。ツギノテFICTIONが2126年の紙面という設定で書いており、登場する出来事・数値・団体はすべて架空のものです。

2020年代、横断歩道の押しボタンを押したあと、「おまちください」の表示灯がすでに点いているのに、もう一度押し直す行動が日常的に見られました。

未来史研究所によりますと、公共記憶アーカイブに預けられた当時の交差点の定点録画およそ2万2000件を分析した結果、表示灯が点いたのを確かめてからもう一度押した例が、ボタンを押した人の61%に上ったということです。

青信号になるまでの待ち時間は平均でおよそ40秒で、押し直した人と押し直さなかった人とのあいだで、青になる時刻に差はみられなかったとしています。

何度押しても、青は同じ時刻にやってきました。

録画には、先に誰かが押していても自分で押し直す人や、人の肩越しに手を伸ばす人の姿も残っているということです。

この行動は、道路設備が歩行者の近づく位置を感じ取り、押されなくても信号が変わる仕組みが広まったことで、2050年代までにほぼ姿を消しました。

現在この習慣を知っている人は、およそ0.6%にとどまっています。

未来史研究所は寄贈月間にあわせて、旧交差点から外された押しボタン装置の実物を展示し、表示灯が点く部分を再現して来場者に押してもらっています。

装置が信号につながっていないと案内していても、来場者の多くが一度では手を離さないということです。

研究所の内部には、押す動作が待つ時間の不安を軽くしていた可能性があり、無意味とまでは言えないという見方もあるといいます。

研究員はこう話しています。

「押し直しても早まらないことは、当時の人もたぶん知っていました。待っているあいだに手がやることを残してくれる装置だったのだと思います」

展示を訪れた来場者はこう話していました。

「展示だと分かっているのに、一度では落ち着きませんでした。3回押して、やっと安心して待てました」